新商品/新サービス開発支援
ほまれのふくろ【前編】

2023年3月20日

仙台の老舗染物店×SDGs
「袋のための手ぬぐいの物語」<前編>

株式会社ほまれや 取締役 土田さん


第9回新東北みやげコンテストにおいて見事入賞を果たした「ほまれのふくろ」。伝統的な吉祥文様と仙台ゆかりの文様のデザインを施した、本染の手ぬぐいによるエコバッグです。毎日の買い物のお供にするのはもちろん、バッグインバッグや取っ手をつけてカジュアルバッグとして持ち歩いてもカワイイ!自分で使うのはもちろん、仙台のおみやげとして喜んでもらえそう。

バッグインバッグにしたり

取っ手を結び付ければバッグ代わりにも


カラフルな遊び心たっぷりの「ほまれのふくろ」。実はこれ、仙台の老舗染物店から生まれた新商品です。古くから、手ぬぐいをはじめさまざまな布製品を企画してきた専門店ならではのさまざまな仕掛けが組み込まれています。手ぬぐいが織りなす、商品開発のものがたりをご覧ください。

introduction はじまり


◆創業90周年に出逢った「新東北みやげコンテスト」

仙台市若林区にある株式会社ほまれや


昭和7年(1932)創業、仙台市若林区でオーダー染物の専門店を営む株式会社ほまれや(以下ほまれや)。戦時中の軍需品から始まり、以来一貫して布・染物製品の生産、販売を行ってきた老舗店です。今では手ぬぐいやタオルなどのノベルティを主力商品とし、ほかには仙台の「すずめ踊り」をはじめ、お祭りに使われるハッピやのぼりなどさまざまな布染物製品を製造しています。
老舗らしい、オーソドックスな布染製品を得意とするほまれやが、なぜカジュアルなエコバッグ「ほまれのふくろ」を作ることになったのでしょうか。それは、ほまれや創業90年の節目に知った「新東北みやげコンテスト」がきっかけでした。

▼新東北みやげコンテストとは
新東北みやげコンテスト(city.sendai.jp)


創業90周年を迎えたほまれやの工場にて

▼ほまれや 取締役 土田さん
「2022年、ほまれやは創業90周年を迎えました。コロナ禍における従来商品の需要減、今では燃料高騰によるコスト高など考えることは山積みですが、この記念すべき年、『新たなものづくりをしよう』と前を向いて進んでみようと思ったんです。そんな時、『新東北みやげコンテスト』を知りました。コンテストに出品する新商品を作ることで、新たなほまれやを作っていこうと思ったんです」


そう語るほまれや取締役の土田さんは、創業家の次期4代目。予想外な外的環境の変化にも負けることなく、新たな道を切り開いていこうと決意をした土田さんでしたが、課題となったのが社内のリソースでした。企画部署はなく、クライアントからの依頼に担当者が各々対応している状態。土田さんが思い描くアイデアを社内のマンパワーでカタチにするのは難しい…。そう考えた土田さんは、仙台市産業振興事業団で行っている、「新商品/新サービス開発支援」の門戸を叩きます。




◆ほまれや&新商品開発チームの発足

仙台市産業振興事業団では、コロナ禍を乗り越え、付加価値の高い新商品またはサービスの開発を行おうとする事業者を対象に、以下を特徴とする新商品の開発支援を行っています。

<新商品/新サービス開発支援>
・支援予算を仙台市産業振興事業団が負担
・マーケティングやデザインなどを専門とする支援チームを編成
・リサーチからプロモーションまで一貫した支援


今回ほまれやはこの支援に採択され、新東北みやげコンテストへの出品と、新たな販路開拓を目指した新商品を開発することに。事業団からは数多の商品開発に関わってきたプロフェッショナルが開発支援チームとしてアサインされました。

Support 公益財団法人仙台市産業振興事業団
Marketing 大志田典明
Direction&Photo 渡邉樹恵子
Copywriting 岡沼美樹恵

Support 外部クリエイター
Design&Illustration 根朋子
敬称略


染物店の伝統技術×商品開発のプロが出逢い、「ほまれのふくろ」の開発がスタートします。






discussion①「コンセプト」


◆目指すのは「手ぬぐいがある暮らし」

企業と開発チームによる打合せ

ほまれやからも率直な意見が出されます


今回の新商品は、ほまれやの数ある製品の中から手ぬぐいを使うことに。手ぬぐいは、古くから日本で愛用され、その柄の美しさや素材感が見直されて近年ではギフトとしても人気が高く、ほまれやとしても商売の軸となる大切な商材です。これまでもお祭りの豆絞りや企業のノベルティとして愛されてきましたが、コロナ禍においてイベントや記念品としての需要は右肩下がり。改めて、手ぬぐいをハレの日のアイテムから普段使いするアイテムとして親しまれるものにすることで、新たなニーズを創出することを目標に打合せが始まりました。


▼ディレクター 渡邉さん
「染物屋さんが作った手ぬぐいで新しい仙台みやげを、という話から始まった今回の新商品開発。ほまれやさんと話していくうちに、おみやげとしてはもちろん、手ぬぐいの持つ特長を活かして、もっと毎日の生活に根付くようなアイテムが作れるのではないかと考えました。そこで生まれたのが、ほどいて使えるあずま袋。汚れたら何度でも洗えて、古くなったらほどいて手ぬぐいに戻る。そんなサスティナブルな現代型エコバッグを、生活の中に取り入れてもらいたい。目指したのは『手ぬぐいのある暮らし』です」

ディレクター 渡邉樹恵子さん


そこでひらめいたのは、手ぬぐいには「育てる」楽しみがあるということ。綿 100%の手ぬぐいは、丈夫で長持ち。そして使うほどに柔らかく肌に馴染んでいきます。豆絞りや風呂敷代わりに使い、古くなったら布巾や雑巾として使うなど、さまざまな用途で使い続けることが可能。とってもエコロジカルな製品なのです。

手ぬぐい×毎日使えるもの×エコロジカル

この掛け算から浮かび上がったものが、「手ぬぐいをバッグにして、使い込んだら布巾や雑巾として使うことはできないか?」というアイディア。エコバッグにすれば毎日持ち歩くことができ、古くなったらほどいて手ぬぐいとしてまた普段使いできるアイテムに。手ぬぐいを、長く、毎日の生活のおともにする「手ぬぐいのある暮らし」というコンセプトが固まりました。




discussion②「デザイン」



さまざまなバリエーションからデザインを検討


◆持つ人の気持ちを晴れやかに

仙台から発信する新商品、おみやげ品としても展開するなら仙台らしいモチーフを取り入れたい。さらには、毎日使うエコバッグならおしゃれで持ちたくなるデザインがいい。そんな話し合いの中で、遊び心のあるテーマが飛び出しました。それは「仙台吉祥」。

デザイナー 根朋子さん

▼デザイナー 根さん
「縁起の良い図柄を指す『吉祥文様』に仙台ゆかりの文様を取り入れて、絵柄を検討していきました。伝統と新しさ、繊細さと大胆さを織り交ぜながら、日常使いにもふさわしい親しみある仕上がりを目指しました。折りの位置でデザインの見え方も変わるので、角度を変えたり、位置やモチーフを調整しながら作り上げていく工程がとても楽しかったです。男性も女性も、どの世代の方も、持つだけで気持ちが晴れやかになってもらえるように…。そんな願いをデザインの中に込めています」


デザイナーのアイデアと新商品開発チームの知見を合わせて、繰り返される打合せ。今回は手ぬぐいに施すデザインであることから、「素敵なデザイン」であることに加えて「染める」「折る」ことも考慮しないとなりません。発色と、デザイン・折りのバランスは調整が非常に難しい。染物のプロ、ほまれや土田さんの製品づくりにおける的確な意見のもと、染物ならではの色の出方、染色可能な文字の太さ、折り方で変わるデザインの見え方、ひとつひとつ丁寧に確認しながら進めていきます。全体の模様のみならず、「メロウ縫い」という布端の処理を施す糸の色、エコバッグを丸めて持ち運びできるようにつけるゴムの色までも徹底的にこだわって選んでいきます。


実際に折って、色・柄・折のバランスを見ていきます

縫製の糸も、この中からぴったりのものをセレクト


何度も打合せを重ね、どんどんブラッシュアップされていく5つのデザイン。最終セレクト時には「どれも素敵…」と、メンバー全員が迷いに迷う事態に陥るほど、魅力的な5つの「仙台吉祥」が誕生しました。


左から 六瓢箪×萩、雪輪×三日月、七宝×竹・笹、青海波×七夕、麻の葉×すずめ




discussion③「ネーミング」


◆持つ人に祝福が降り注ぐように

デザインの方向性が見えてきたら、次はネーミングを考えていきます。デザインに織り込まれた「仙台吉祥」が醸し出す演技のよさ、幸福なイメージを、コピーライターがひとつひとつ丁寧に言葉に紡いでいきます。

コピーライター 岡沼美樹恵さん

▼コピーライター 岡沼さん
「商品全体を通してトーンを合わせるというのもひとつですが、それぞれのデザインに個性があるのでその商品に合ったイメージを表現できるように考えました。変化があっても面白いかなと。持つ人の毎日が祝福の多いものになるように、という願いを込めて、商品名を考えるというより短歌を詠むような感覚でした」

「ほまれのふくろ」という商品名は、商品のコンセプトやデザインの方向性を踏まえながら生み出されたいくつかの言葉の中から、社名である「ほまれや」の「ほまれ=誉れ」が放つ晴れやかで縁起のよさを感じるイメージを優しく織り込んだもの。一見シンプルですが、そこに至るまでには、手ぬぐいをエコバッグにするというプロダクトイメージ、企業のコーポレートブランド、仙台という地域性、あらゆる角度から生み出された言葉をひとつひとつ吟味していくという気の遠くなるような時間を経て、大切に生み出されていきました。

袋のデザインにもひとつひとつ、手に取る人に祝福が降り注ぐような想いを込めた名前が。県花である「萩」、伊達政宗公の兜に乗った「三日月」、家紋の「竹に雀」、仙台七夕を思わせる「笹」。デザインの仙台モチーフそれぞれの言葉の意味はもちろん、花言葉や松尾芭蕉が詠んだ俳句など、さまざまなところから得たインスピレーションがみるみる美しい雅な言葉となってデザインに降りていきます。どんなネーミングになったのかは、「後編」で。


後編へつづく…