よいみせ│籠屋ハセガワ
宮城県東松島市の住宅街にたたずむ、1軒の蔵。この場所で、代々伝わる古い木造の蔵を改装して営業しているのが「籠屋ハセガワ」です。
取材班が到着すると、とびきりの笑顔で「いらっしゃーい!」と元気よく代表の長谷川明美さんが迎えてくれました。
写真:築140年の蔵をリフォームした「籠屋ハセガワ」の店内
「うちでは、山ぶどうの樹皮を利用した籠細工をつくっています。梅雨時期に山に入り、山ぶどうの蔓の樹皮を剥いでくるんです。この時期でないと樹皮が固くなってしまうので剥ぐことができない。4週間から6週間が勝負なんです。そうして剥いだ樹皮はカビなどを予防するためにも3か月から6カ月ほどしっかり乾燥させます。そして編む直前に数時間水に浸してから角材のカドなどをつかってなめす。そうすると、余分な皮がはがれて、きれいなヒゴができるんですよ」。
写真:山ぶどうの樹皮は、乾燥させた後で編む直前に水に浸し、なめしてから使用します
樹皮を5ミリ、10ミリのヒゴ状にして、それを50本程度でまとめてつくり、それを編むときには霧吹きで湿らせつつ編んでいくそう。その工程は実に手間のかかったものですが、長谷川さんはなぜ、この籠バッグなどの籠細工を始めることにしたのでしょうか。
「20代の若かりし頃に出合ったのですが、そのときは『素敵だな』とは思ったものの、手が出なくて。憧れだけはずっとあって、ある時、知人の雑貨屋さんをお手伝いをすこししていたときに、『自分でつくれないかな?』って思うようになって。もともとものづくりが好きで、娘の洋服をつくったりしていたから、これもいけるかな…?って(笑)。それで教えてくれる教室を調べたら、当時、日本に2カ所だけあって。そのうちのひとつが、古川にある『ちいくろ工房』さんだったんです。それで先生のところに行って習うようになり、技術を身に付けました」。
写真:東松島市の住宅街にたたずむ、「籠屋ハセガワ」の工房兼店舗
こうして山ぶどうの蔓で小物を編むようになった長谷川さん。籠細工を販売しようと思ったのは、意外なことがきっかけでした。
「今、工房と店舗にしているこの蔵は、夫の実家が所有しているもので。義父が『お前たちに遺すのも大変だろうから、俺の代で壊す』って。義父としては私たちに負担をかけまいとしていってくれたのですが、私はどうしてもこの蔵を残したくて。それで義父さんに『私に使わせてほしい』とお願いして残してもらったんです。蔵を残すからには修繕費と維持費が必要で、『それなら籠細工をつくって売ろう』となり、また一から勉強しなおした感じです」。
写真:もともと手芸が好きで、得意だったという長谷川さん
140年超の歴史を持つ蔵の修繕は、いわゆる一般の工務店では難しかったようで「義父の伝手で、知り合いの一人親方にお願いしました。躯体も傾いていたり、柱も古くて色が変わっていたりで大変な修繕工事を行っていただきました。内装に関しては、仙台市内のアトリエモルソーさんにお願いしてつくっていただきました」と長谷川さんは話します。
写真:代表的な網代編の籠バッグ
一般的によく見られる編み方は「網代編」というものですが、長谷川さんが主に製作している籠バッグは、籠の中が見える「うろこ編」という技法で編んでいるのだそう。
「東京にある教室で、編み方をいくつか教えてくださる教室があって、そこで習ってきたんです。洋服をつくったりするのが好きだったもので、バッグの中に布を入れたいなって思って。中に入る巾着ひとつで表情がガラッと変わるのも素敵だなって思ったものですから。それに、うろこ編は網代編に比べると制作時間も短いんです。網代は3週間から1カ月、うろこは2週間程度かかります」。
写真:内側に入れる巾着でさまざまな表情を見せるうろこ編の籠バッグ
今は、お客さまからの注文も多く、「お待たせしている状態が続いています。それでも…という方はぜひお店のほうに来ていただき、展示してあるサンプルからオーダーをお受けする形になります。今後は、日本だけでなく海外への進出も考えておりまして、10月には香港の展示会に出品する予定。それから、世界各国でワークショップもやってみたいですね」と、長谷川さん。
東松島から、手づくりのクラフトで世界へ―。
長谷川さんの挑戦は始まったばかりです。
籠屋ハセガワ
所在地 〒981-0503 宮城県東松島市矢本大林28−1
TEL 070-8338-6052
URL http://kgyhsgw.com/