見る、聞く、学ぶ。工場見学のススメ|vol1.島津麹店(宮城県石巻市)
|日本特有の麹文化と100年の歴史を守るために
東日本大震災後、オリジナルの甘糀飲料「華糀」を開発し、復活へと歩みを続ける島津麹店。明治42年創業の老舗を切り盛りするのは、6代目の佐藤光弘さん(32歳)と事業統括をする父・憲光さん(66歳)。震災前は二人ともまったくの異業種で、憲光さんは石巻の隣町・女川町で登記・測量の事務所経営、光弘さんは福島県で会社員として働いていました。そこに震災が起こり、100年以上の歴史を持つ奥様の実家、島津麹店が存続の危機に。1世紀以上も続いてきた糀文化を絶やすわけにはいかない!と佐藤さん親子は立ち上がりました。
津波被害で建物や道具はほぼ全滅。そんな状況でも店を継ごうと決意したのは、「島津麹店の種菌があると連絡をくれた種麹屋さんのおかげ」と振り返る憲光さん。麹菌は、気温や湿度、天候など環境の影響を受けながら、時間をかけてゆっくりと変化しその場所特有のものになっていくといいます。つまり、島津麹店の味は、100年以上かけてつくられたものなのです。「その種菌が別の場所に保管されていたというのは奇跡的。それがあるならやれるかもしれない!と思いました」
ここから、佐藤さん親子の大進撃がはじまります。 。
|糀づくりとは、菌のお世話をしてあげること
創業当時から続く島津麹店の生糀づくり。憲光さんは、お義母様の手伝いを通じてその伝統的な製法を一つひとつ学んだといいます。原料は、近年希少品種になりつつあるササニシキ。しかも、100%地元産の一等米を使うというこだわりよう。製法だけでなく、原料へのこだわりもしっかりと受け継がれています。新しく購入した道具も、機械以外はほとんど木製
生糀づくりは、夜の11時頃からスタート。米を洗って水に浸しておき、翌朝ざるにあげて1時間ほど水を切ります。それをせいろで蒸して麹菌をまぶし、発酵させれば完成です。
「発酵は、1粒のお米にいくつもの小さな麹菌がくっついて、一生懸命お米に穴を開け自分たちの居場所を増やしていくイメージ。これを人が手で混ぜて均等にしたり、温度や感触から発酵にかかる時間を割り出したりして『お世話をしてあげる』ことが大切です」(憲光さん)。
こうしてできた生糀は、腐敗につながる雑菌の増殖を抑制するため、いったん-20度以下で冷凍されます。その後、味噌なら塩と豆、塩糀なら塩と水という具合に、つくりたい商品に合わせて材料をかけ合わせていきます。
|常識を覆す低温処理で麹菌が生きたまま
そんな佐藤さん親子が開発し、今や島津麹店の主力商品となった「華糀」は、一般的な甘酒とは似て非なるもの。甘酒が、糀に砂糖や添加物を加え、高温で殺菌処理してつくられるのに対し、華糀は、できたての生糀に炊きあげたササニシキと水のみをかけ合わせ低温加熱製法でつくられます。高温で加熱処理しないため、腸にやさしい生きたままの麹菌がたっぷり。また、砂糖・食品添加物不使用でノンアルコールのため年代問わず毎日食べられて、習慣化すれば「きれい」「健康」「おいしい」が同時に得られるというスグレモノ。
建て直しを余儀なくされ、以前とはまったく風情が異なってしまったという島津麹店の製造所。しかし、建物や道具が失われてしまっても、先代たちがつないできた麹屋としての志は今も変わらず息づいていました。佐藤さん親子の「新しい島津の味」の探究は、まだ始まったばかりです。
島津麹店
住所:〒986-0828 宮城県石巻市旭町3-24
営業時間:月〜金/8:45-18:30 土/9:00-12:00
定休日:日・祝
TEL:0225-22-1708
URL:http://hana-kouji.strikingly.com/
ライター 塩坂佳子(しおさか よしこ)
大阪府出身。大阪や東京でフリーランスのライター、編集者として活動後、2015年9月に宮城県石巻市に移住。現在は産業復興支援員として石巻総合情報サイト『ぼにぴん』を運営するほか、東北の名産品をキャラクターにしたブランド『東北✩家族』や『石巻さかな女子部』を主宰している。
http://thk.moo.jp/