皆様はじめまして。中小企業診断士の岩佐克之です。
新型コロナウィルス感染症の流行が収束に向かう中、経営の立て直しにご苦労されている経営者の方も多いかと思われます。新型コロナもそうですが、地震や水害、雪害など、近年は大規模自然災害が常態化しており、経営に対しても予期せぬ悪影響が生じることが増えてきています。
仙台市含む宮城県は、12年前の東日本大震災の地震・津波のみならず、台風や水害など数多くの災害を経験し、大きな被害を被っています。東日本大震災では、多数の事業者が直接・間接的に被災し、手厚い公的支援などの中でも残念ながら事業継続を諦めざるを得なかった事業者も少なくありませんでした。災害が常態化する中、いつ自社が被災してもおかしくない災害に対し、経営者の皆様はその対策を講じていますでしょうか?
1. 災害が経営に与えた影響
東日本大震災では、宮城県で最大震度7の揺れと、20mにも及ぶ津波によって、多数の死者行方不明者、施設や車両・設備等の被災、電気・ガス等のほか通信・交通等含めたインフラの被災など、当時誰も想像できなかった被害が発生することとなりました。仙台市内でも数多くの事業者が、施設設備や人材への直接被害による突然の事業停止や、調達先や販路の喪失、インフラ被害の影響等の間接被害による事業中断など、経営自体に大きく影響を被ることとなりました。そのほか、豪雨・豪雪・水害・土砂災害などの自然災害においても同様に直接間接の被害によって事業継続の危機に陥る事業者が生じています。
また、新型コロナウィルス感染症の流行においては、当初正体不明のウィルスに対し消費者の行動変容や需要変動によって、飲食業・観光業等を中心に影響が広がり、事業性を喪失させていきました。
このように自然災害等の外的要因による経営への影響は、事業継続性の喪失に繋がることも少なくありません。ただ一方で、災害時の経営環境の中でも業績への影響を限定的に抑えた、もしくは業績を伸長させた事業者もありました。
例えば、東日本大震災では、施設設備を流失しながらも代替設備をいち早く準備するなど、他社に先んじて事業を再開した水産加工会社などは、復興需要と支援の受け皿となり、早期の復旧復興と成長を遂げた事業者もいます。コロナ禍では、大多数の飲食店が減収となる中、ターゲット顧客に対し高い付加価値を提供している店や、ターゲット顧客に応じた高付加価値化に成功した店舗などは、外食機会が減少する中で消費者に選ばれる店として業績を伸ばしているケースが見られました。共通していえることは、災害時にあっても素早く柔軟に収益性を確保するための活動を実践していることなどが挙げられます。これらが「災害時の経営力」といえるものかもしれません。
2.大規模災害が常態化した中での対策
自然災害等が常態化する中で経営継続するための対策としては、「BCP(事業継続計画)」によって事業継続を目指すことが有効性のある対策です。BCPによる災害対策は、単なる防災や損害保険加入等に留まるものではなく、「商品サービスの提供を継続・早期再開する対策を講じることで収益性を確保し事業継続性を高める」ことが最大の目的となります。計画内容としては、防災や保険等も含めた災害対策を体系的に取りまとめ、事前対策のみならず災害発生時の初動から事業再開までを行動計画に落とし込んだものであり、災害発生時の経営計画・事業計画といえるものとなります。
BCPは、災害時の「自助」「共助」の基幹となる存在として、東日本大震災以降注目を集めることとなりましたが、特に中小企業では策定数が伸び悩んでいる状態にあります。中小企業における策定ノウハウの不足等はありますが、必要性を感じながらも日々の業務の中で優先順位が低くなってしまうというのが正直なところではないでしょうか。ただし、昨今では中小企業においてもBCPを後回しにできない状況になってきています。
3.自助・共助重視への公的支援制度の変化
東日本大震災以降に生じた大規模災害において、復旧復興の基礎となってきたのが「グループ補助金」に代表される補助金等の公的支援でした。これまでは施設設備等が被災した事業者は原則として補助の対象となってきましたが、令和5年度からBCPに準じる公的認定制度である「事業継続力強化計画(ジギョケイ)」の認定がなされていることが一部の災害関連補助金の申請要件となりました。(グループ補助金・なりわい再建支援補助金・地方公共団体による小規模事業者支援推進事業費補助金など)これらから、災害支援に関してはBCPやジギョケイなど「自助」「共助」に取り組む事業者が、「公助」である補助金等の対象になると受け取れる制度設計となってきたといえます。
※ジギョケイの制度内容や補助金等のメリットは下記URLからご確認下さい。
中小企業庁:事業継続力強化計画
まとめ
以上のように、常態化する自然災害に対し、各事業者は災害に遭うことを前提とした経営を考える時期にきています。BCP策定等を通して災害に備えた経営力の強化を図り、災害時の事業継続性強化とともに、平時の更なる信頼性向上・成長機会獲得を図ってみては如何でしょうか?
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中小企業診断士
岩佐 克之
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