こんにちは。中小企業診断士・社会保険労務士の髙橋広之です。
中小企業応援窓口の開設から3か月が経ちました。毎日さまざまなご相談をいただく中で、ある飲食店経営者の方から興味深いお話を伺いました。「持続化補助金一般型を申請して個室を作り、あわせて厚生労働省で推進している〝受動喫煙防止対策助成金″を活用し喫煙室を作ろうと思っています。店にくるお客様から禁煙室の要望が多く両方の部屋があれば、売上がもう少し伸びると思うのです。」というものです。
東日本大震災の時も感じましたが、コロナ禍の売上の回復も未定の状態で、更に投資をしようとする前向きな姿勢は、宮城県民の特性でしょうか。それとも事業家の性(さが)でしょうか。最悪の状態でも、未来を信じて行動しようとする経営者の姿勢には頭が下がります。
「販路開拓におすすめ!”小規模事業者持続化補助金”申請のポイント」コラム#2
受動喫煙防止対策、あなたのお店の対応は?
健康増進法が改正され、2020年4月から原則として屋内禁煙が義務化されました。一部のお店では受動喫煙防止対策を猶予されている場合がありますが、原則として受動喫煙防止対策をしなくてはいけません(これから対策する方には、後述する厚生労働省の助成金「受動喫煙防止対策助成金」を活用することをおすすめします)
出典:厚生労働省「受動喫煙対策」
飲食店も当然、屋内禁煙の対象です。新型コロナウィルスの影響で外食の機会はめっきり減っていますが、仙台市内の名掛丁、国分町、一番町にある私の知人のお店でも店内完全禁煙、喫煙室の設置等の対応をしています。
一方で、考慮しなくてはいけない点があります。受動喫煙対策をすることによる客数の変化です。例えば、居酒屋のような業態で完全禁煙は営業的に何も問題はないのでしょうか。私のような愛煙家は、完全禁煙のお店に行くことはないと思うのです。
受動喫煙対策のパターン
一言で受動喫煙対策といっても、その方法にはいくつか種類があります。ここでは3つご紹介します。
① 店内完全禁煙
ファーストフード店やファミリーレストランなどチェーン展開している企業は店内を完全禁煙にしているところが多いです。特に設備投資の必要がないため、コストはほとんどかかりません。店内を完全禁煙にすることで、非喫煙者層へのアピールにつながります。既存のお客様の中には喫煙者もいたため導入当初は、売上の減少が危惧されましたが、ファミリー層の獲得が功を奏し、客単価も上がり、売上好調の店が出ているようです。
② 喫煙専用室を設置
店舗内は原則禁煙とし、屋外・屋内のいずれかに喫煙専用室を設置して分煙する方法です。なお、室内は飲食不可になります。改装等の投資が必要になるため、費用対効果を考えながら設置を検討する必要があります。
③ 加熱式たばこ専用喫煙室を設置
ブース内での飲食が可能です。喫煙だけでなく飲食もできるため喫煙者からの注目が集まっています。ただし、加熱式たばこの専用喫煙室も②の喫煙専用室同様に改装等の投資が必要になることから、投資対効果を考えながら設置を検討する必要があります。
他にも受動喫煙対策のパターンがありますが、大きく分けると上記の3つのパターンに分類されます。
喫煙の可否は外食先の決定に影響を与える?
3つの受動喫煙対策をご紹介しましたが、どのパターンを採用するかは、顧客ターゲットの特性や行動の変化を考慮し投資に対する売上効果を精査したうえで、決めましょう。
下記のグラフは、エヌピーディー・ジャパン株式会社の資料から抜粋したものです。同じ外食といっても、業態によって、たばこを吸える・吸えない、が外食の際の店舗選択に影響を与えることがわかります。
先日、仙台市中心部の飲食店を何店舗か訪れましたが、完全禁煙にしている店舗が目立ちました。確かにファミリーレストランなどでは、全席禁煙を理由にその店を選択する傾向がもともと強いため、ターゲット層を喫煙者からファミリーへとシフトチェンジしたとしても成功できる見込みがあったのでしょう。
一方、アルコールを伴う居酒屋では、喫煙できることが選択の理由としてあげられる傾向にあります。例えば、私が外食する際は、基本的にアルコールを伴いますので、自ずと居酒屋に行くことが多くなるのですが、グラフと同様、「喫煙ができること」は重要な選択理由になります。
つまり、安易に完全禁煙の対応をとると、ファミリー層の取り込み以上に喫煙者層の流出を招くことになりえます。慎重に考えましょう。
受動喫煙対策の取り組み事例
全国の飲食店ではどのような受動喫煙対応をしているのでしょうか?ここでは、居酒屋の事例を2つご紹介します。
<A社>
居酒屋業態を持つ企業の中ではめずらしく、早くから「フロア内分煙」に取り組んでいました。居酒屋のお客様には、お酒を飲みながらタバコを吸う愛煙家とタバコの煙が苦手という方がいらっしゃいます。A社は受動喫煙問題が叫ばれる前から喫煙席と禁煙席に分けて営業してきました。今年の4月からは自社居酒屋の大半に「喫煙専用ルーム」を設置して受動喫煙防止対策に取り組んでいます。分煙化により、小さいお子様をお連れのファミリー層からお酒を飲みながらタバコを吸う愛煙家まで「さまざまな顧客のニーズに応えていきたい」という飲食店の原点を追求しています。
<B社>
2016年6月に、全国初の禁煙居酒屋チェーンとして嫌煙家やファミリー層の取り込みに成功。禁煙導入3ヶ月目には客数12%増を実現させました。しかし、その後11ヶ月連続で既存店売上高が前年割れとなり、創業以来の深刻な危機に陥りつつあります。健康増進への意識が高い医療関係者、知識層を中心に最初は絶賛されましたが、継続して利用されてはいないようです。1串100円セールを実施したり、3世代で楽しめるように子供向けメニューを充実させたりしながら、集客浮揚・売上回復に努めています。
(以上、Foodist Media by 飲食店.com・まぐまぐニュース!を参考に編集)
上述のとおり、受動喫煙対策といっても業態や立場によってさまざまな考え方、取り組み方があります。受動喫煙防止対策(改正健康増進法)=完全禁煙化と捉える方もいらっしゃるとは思いますが、先述したB社の事例で考えると、完全禁煙にしたからといって経営に好影響を与えるとは言い切れません。明らかなデータはありませんが、居酒屋のような業態では喫煙者がリピーターになっているケースも多いのではないかと推測します。
重要なのは、お客様のニーズにあったサービスの在り方を考えることです。飲食店のような業態は、コロナ禍ではソーシャルディスタンス等で店舗内の席数を減らさなければなりません。それは、店が満員になったとしても、前年の売上を上回ることができないことを意味します。
このような状況下では、お客様の裾野を広げて来店客数を維持する施策が必要です。特に居酒屋では完全禁煙ではなく分煙対策を実施することにより喫煙者・非喫煙者双方のニーズに応えるなど、フレキシブルな対応が求められます。コロナ禍だからこそ、売上を伸ばす一手段として受動喫煙防止対策に取り組んでみてはいかがでしょうか。
「受動喫煙防止対策助成金」を活用しよう
今回のコラムでは、受動喫煙防止対策について書いてみました。これから対策を講じる方がいらっしゃいましたら、ぜひ厚生労働省の「受動喫煙防止対策助成金」をご活用ください。職場での受動喫煙防止対策を行う際に、その費用の一部を支援する厚生労働省の助成金制度です。
現在のところ申請締め切りは提示されていませんが、お早目の検討をお勧めいたします。
仙台市中小企業応援窓口では「受動喫煙防止対策助成金」をはじめ、さまざまな補助金制度や些細なお悩みでも無料で何度でも相談できます。ぜひ、お気軽にお問合せ下さい。
相談予約は電話またはフォームで承ります。
中小企業診断士・社会保険労務士
髙橋 広之
経営・人事労務をトータルで応援!財務管理から労務管理、後継者育成まで幅広くお手伝いします。前職では地元水産会社にて大手量販店を担当。業界の酸も甘いも知る人情コンサルタントです。