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『会社を畳む』という選択肢|コラム#22

  • 資金繰り・事業計画

2021.03.10

こんにちは。中小企業診断士の鈴木たすくです。

新型コロナウイルスの終息が一向に見えない中、会社の将来に不安を抱いていらっしゃる経営者も多いのではないでしょうか。仙台市産業振興事業団には、経営、財務、人事労務、マーケティングなどさまざまな分野の専門家が在籍しており、経営に関することなら何でもご相談いただけます。相談料は無料、電話やオンラインでの相談も可能です。一度ご相談にいらしてみませんか?

さて、今日はあえて「会社を畳む」という選択肢についてお伝えして参りたいと思います。というのも、知識として知っておくことで心構えができ安心が生まれますし、一番大切なこと=早めに対策を講じることができるからです。今回の話は、ひとつの情報として頭の片隅に置いていただければ幸いです。

廃業と倒産の違い

「廃業」も「倒産」もよく聞く言葉だと思いますが、どう違うのかいまひとつピンとこない方も多いのではないでしょうか。簡単に言うと、「廃業」とは自主的に事業をやめること、「倒産」とは資金繰りが悪化して債務が支払えなくなり会社を畳ませざるを得ない状況になること、と分けていただければイメージしやすいかと思います。

会社を畳む際の類型について図表に整理しました。このうち、会社更生は大企業にとられる手法であり、また民事再生も比較的規模の大きな会社にとられる手法であるため、中小・小規模事業者の選択肢としては廃業か、倒産であれば破産若しくは私的整理の形態をとることが多いようです。(実態として、倒産の場合約8割が「破産」の形態といわれています。)

廃業と倒産の違い

会社を畳む際の手続きについて

個人事業主の場合、「廃業届」を含むいくつかの書面を税務署など関係各所へ提出します。基本的に手続きはこれだけですが、廃業した最後の年の確定申告や納税は必要になります。

法人の場合、いったん「解散」の手続きをして事業を停止し、債権債務の清算が済んだ段階で正式な「清算」の手続きに移行します。つまり、法人の場合は解散と清算の2つの手続きが必要ということになります。

清算の種類には、解散した会社が残った債務を全額支払うことができる場合にとる方法の「通常清算」と、残っている会社資産では債務を完済できない場合(債務超過など)にとる方法の「倒産手続」(破産など)があります。

会社が破産申し立てを行う場合、中小企業の経営者の多くは会社の借入債務を連帯保証しているため、保証人になっている会社経営者も一緒に自己破産の申し立てを行うケースが多いです。経営者自身も自己破産の申し立てを行うため、所有している換価価値のある資産は全て提供することになってしまいます。(自宅などの不動産や株その他の有価証券、積立の保険など。)

廃業と破産のメリット・デメリット

また、廃業にせよ破産にせよ、会社を畳むためには一定の時間と費用が発生します。ギリギリのタイミングになってからや資金が底をついてからでは遅いため、早めの判断が必要になります。

廃業と破産にかかる費用

個人再生とは

以上のように、比較的資金に余裕のあるうちに会社を畳む廃業と違い、破産を選択した場合は経営者個人の財産やその後の生活に大きな支障が生じます(自宅を引き払うなど)。そこで、経営者自身が破産せず経済的に再生することを目的とする「個人再生」という手法があります。
これは、多額の債務を負った個人が裁判所に申し立てを行い、将来の収入を弁済原資とした弁済計画を作成することで、残債務の一部を減額してもらいながら返済していくという制度です。

個人再生には、「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2つの類型があります。
「小規模個人再生」は、負債額が5千万円以下の個人について、将来にわたり継続的に又は反復して収入を得る見込みのある場合に利用できます。
「給与所得者等再生」は、小規模個人再生の要件に加え、給与等定期的な収入を得る見込みがありかつその額の変動幅が小さいと見込まれる場合に利用できます。

個人再生のメリット・デメリット

個人再生は自宅(持ち家)などの財産を失いたくない、借金の額が比較的大きい、破産後も仕事のあてがあり一定の収入が見込まれる、という方に比較的向いていると言えます。

会社を畳む際に留意すべきこと

(1)対従業員
従業員に対して事情を説明することはもちろんのこと、労働基準法に則った形での解雇予告や、会社によっては退職金の準備も必要です。従業員のためにも可能であれば再就職の支援をするなどの配慮があると良いと思います。

(2)対取引先
仕入業者に対しては在庫数や支払条件(末締翌月払)なども考慮しながら告知の時期を検討しましょう。仕入先にとっては売上が減ってしまうことになりますので誠意ある対応が必要です。
また、テナントに入居している場合は契約上の解約通知の期限が設けられていますので事前に契約書を確認しておきましょう。仮に解約通知の期限が退去の6カ月前までという契約の場合、今月解約の通知をしてもその先6カ月間は家賃を払う義務が生じるため注意が必要です。また、原状回復の有無なども契約書で確認しておく必要があります。

(3)対金融機関
中小企業の場合、多くが借入金の個人保証をしていると思います。その場合、自己破産の場合を除き、廃業したとしても債務の返済は逃れられません。今後の返済方法をどうするのか、私的整理に応じてもらえるのか等、早めに金融機関と相談した方が良いでしょう。理想を言えば、資産を処分すれば借金を返せる段階(債務超過となっていない段階)で会社を畳むことが望ましいです。

会社を畳む以外の選択肢を考えよう

(1)休眠会社にする
もしいつか(数年後など)また事業を再開したい場合、いきなり廃業する前に休眠会社にして事業を停止する方法もあります。休眠は会社が消滅するわけではなく、会社は存続させたまま事業活動を停止することになります。「廃業」や「倒産」と違い「休業」という第3の位置づけと言えます。
休眠の手続きは、法人の場合は、「異動届出書」という書面を税務署など関係各所へ提出します。個人事業主の場合は、収入0円・経費0円の決算書を作成し、申告書別表一の目につく場所に「休業中」と記載して申告所得額0円で申告書を提出します。休眠中であっても毎年税務署に提出する確定申告は必要となりますので注意が必要です。

休眠会社のメリット・デメリット

(2)M&Aや事業承継を利用する
会社を畳む際にはじめに検討していただきたい事柄です。会社を他の会社などに売却する、あるいはその会社を引き継いで経営したいという人を探す方法です。お店の暖簾や従業員の雇用を守れるといったメリットがあります。また、事業を売却した代金を受け取れるケースもあります。

おわりに

事業を継続するのも経営判断のひとつですが、事業を畳むのも同じように経営判断のひとつです。いずれの選択肢をとるにしても、大事なのは「早めに決断をする」ということです。判断が遅れると負債がどんどん膨らみ、結果的にお客様や従業員、取引先など多方面に迷惑をかけることになってしまいます。一度リタイヤしても再チャレンジできる可能性はあります。不安を感じたとき、判断に迷ったときは、独りで抱えこまず、ぜひご相談にいらしてくださいね。

仙台市中小企業応援窓口では、経営、財務、人事労務、マーケティングなどさまざまな分野の専門家があなたの経営をサポートします。仙台市が出資する非営利の中小企業支援団体ですので、安心してご利用ください。もちろん秘密は厳守いたします。

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鈴木 たすく

中小企業診断士

鈴木 たすく

経営の健全化を応援!「中小企業の“街のお医者さん”」として細やかなヒアリングと適切な診断のもと、経営を改善に導きます。