仙台市地域企業課題解決マイスター

MEISTER#05

堀切川 一男
Kazuo Hokkirigawa

東北大学名誉教授
工学博士

専門分野
トライボロジー、設計工学、材料科学、ものづくり全般

充実感+達成感+満足感
ものづくりは、正のスパイラル!

御用聞き事業のキーパーソンである堀切川先生。実は、この事業がスタートする前からかかわってこられたといいます。

 「御用聞き事業を始める前年に、『仙台市役所の中に産学連携推進課が立ち上がるけれど、何をしたらいいのかわからない。これまでの知見からアドバイスがほしい』と、役所の方が相談に来たんですね。そのときには『御用聞き』って言葉は出さなかったんですけど、まずは地元の企業さんを訪ね歩いて、開発のニーズとか技術の困りごととか、地域産業界のニーズを調べるところからやった方がいい』とお話したんです。そして年度が変わって『産学連携推進課ができたので、なんかやって』って(笑)。それが私が御用聞き事業にかかわることになったいきさつでございます」。

堀切川先生の専門はトライボロジー、つまり摩擦の科学で、これまでに企業と共同研究でさまざまな商品を開発してきました。「大王製紙という会社と共同で、ローションを含まない柔らかいティッシュの開発をしたんですよ。コストがかかるので1箱10円ちょっと高く、5個パックで50円から60円高い定価だったんですけど、発売から4年後ぐらいに日本一売れるようになって。それまでずっと業界3位だったのが、品質をよくしたら消費者はそれを選ぶようになって、それ以降ずっと日本一売れてます。その後、ローション入りもすべてリニューアルをかけたら、どちらも日本一になったんです。で! ここからが大事なんですが、『特許料はもらわない』という生き方をしてしまったために、日本一売れていても私には何もないのであります(笑)」。

東北大学の名誉教授とは思えないほど軽妙な語り口で、瞬く間に人を魅了してしまう堀切川先生。御用聞き事業では、ご自身の専門外の商品開発にも携わってきました。その最たるものが「仙台づけ丼」です。「仙台って牛たん以外の名物がないなって思ってたんですよ。ある日、大分で食べた『琉球丼』にヒントを得て、宮城は赤身も白身も貝もうまいんだから、これをづけ丼にしたらいいんじゃないか、って。それで仙台市の寿司組合と一緒にづけ丼つくることにして。基本的なレシピの条件だけ決めてあとは各店でやる、と。最初は12店舗で始まったのが、震災後、県の寿司組合の事業にまで発展し、私が直接聞いた数字では124店舗まで広がったそうです」。

先生にものづくりについて伺いました。「中小企業さん、地域企業さんと開発に取り組んでるときって、楽しいんですよ。それは充実感って呼んでるんです。で、充実感を持って製品化が決まったときの達成感は3倍うれしいですよ。だけどその先があって、たとえば『仙台づけ丼食べてうまかったよ』っていう声聞くと、それは満足感になる。充実感、達成感の上に満足感は無限大で。その体験をしてしまうと、苦しくても次の開発をやりたくなるじゃないですか。私はこれを正のスパイラルっていってるんです。ものづくりは、正のスパイラルで進むのがいいんです」。そのお人柄と豊富な知識、経験、人脈をもって、堀切川先生はこれからも仙台・宮城、さらには東北、日本の産業を支えていきます。

略歴
八戸市生まれ。1984年東北大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程後期3年の課程修了。東北大学工学部助手、講師、助教授、山形大学工学部助教授、東北大学大学院工学研究科教授を経て、同大名誉教授。産学官連携による開発、製品化は270件以上。文部科学大臣賞(科学技術振興功績者表彰)、内閣府科学技術政策担当大臣賞(産学官連携功労者表彰)、イノベーションコーディネータ大賞・文部科学大臣賞、産学官連携功労者表彰 内閣府科学技術政策担当大臣賞(地方創生賞)、経済産業省ものづくり日本大賞(優秀賞)、仙台市市政功労者表彰、河北文化賞、日経 BP Biz-Tech 図書賞などを受賞。

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