仙台市地域企業課題解決マイスター
齋藤 文良氏
Fumio Saito
東北大学名誉教授、齋藤粉体技術研究所所長
工学博士
- 専門分野
- 粉体工学、特に粉砕による微粒子生成とメカノケミカル効果利用技術、微粒子分離と分散および表面処理など
この世界は「粉」だらけ!
粉体工学で、仕事を、世界を変えていく
「粉体工学」の分野で、仙台市はもとより国内企業の課題解決に取り組んでいる齋藤先生。
「粉体工学は、『粉』を取り扱う工学です。我々の周りにも粉が多くあります。大気中にはPM2.5を含めた粉塵が舞っているし、河川・湖沼・海洋にも大小さまざまな粒子が懸濁しています。周囲には、コンクリート、鉄骨、壁材、プラスチック、合板などがあり、それらの製造工程では粉の形態です。食品も、お茶、コーヒー、小麦粉、ふりかけ、砂糖などの調味料なども粉であり、それら原料が育つ畑も粉。医薬品も約8割が粉ですし、誇張かもしれないけれど私たちは粉と同居しているといっても過言ではありません」。
ご専門を伺うと「固体を砕いて粉にする効果的な手法の開発とその過程で起こるメカノケミカル現象の機構解明及びその工学的利用です」と。「粉砕すると固体の組織・構造が変化し、粉は付着・凝集しやすくなって周囲の物質と化学反応を起こします。このような現象をメカノケミカル現象といいますが、これを利用するとさまざまな物質が合成でき、その後の溶液処理や加熱処理と組合せると新たな固体処理プロセスができます。すでにさまざまなものづくりの現場で取り入れられていますよ」と、齋藤先生。身近な例としてコーヒー豆を挙げ、「ミルで挽き過ぎるとできたコーヒーは苦くなってしまいますが、それは豆の組織構造が過度に壊れて、お湯で抽出した時に苦み成分まで溶出するから」と教えてくれました。
御用聞き事業を支援して16年余。その間、さまざまな経験をされたようで「すべてが的を射たものではなかったけれど、うまくいったときは企業の皆さんと喜びを共有できとてもうれしかったですね」と。印象深い例を伺うと、「砕石製造の現場で、処理量アップ法の相談があり、現場を見せていただいて助言などをさせていただきました」と。後日、社長さんから連絡があり、「目的を達成しました」という報告もあったそう。また、鍛造品製造企業訪問では、「大量に発生する産業廃棄物の処理に苦慮されていましたが、現場でビーカー試験をし、それを仙台市の支援でスケールアップしリサイクル品を得ました」と。さらに、「NEDO支援で市内の企業と廃蛍光管のリサイクルを進め、成果を挙げたことも忘れられない」そう。最近では市内企業が開発した3次元ミルの特徴を実験とシミュレーションで示し、顧客ニーズに応えられるようにしたことや、地元企業の扁平な磁性粉の最適製造条件を模索することを支援しています。また、技術的な相談ばかりでない例として、企業訪問時に「この分野の専門家を教えていただけないか」「こういう製品を製造している外国の企業を教えてください」などの問合せもあり、人脈を活かして仲介役を果たしたこともあったそうです。
齋藤先生に「粉」の面白さについて伺うと、「予測がつかないところ」と即答。「粉は周囲の湿度、温度、粉の大きさや分布などに左右され、夏と冬では扱い方が違ってくる」など具体的な例を挙げて教えてくれました。
昨今は資源枯渇、環境汚染など地球規模での課題も多く、粉体工学が果たす役割も少なくありません。齋藤先生は、日本粉体工業技術協会の技術相談員でもあり、粉体工業の発展のために活動しています。今後も仙台市のマイスターとして、ご自身の経験を活かし、関連企業の課題解決に寄与・貢献していくことでしょう。
- 略歴
- 山形市生まれ、1970年3月山形大工卒業、1972年3月同大院修士修了、1982年3月工学博士(東北大学)。1972年山形大工助手採用後、東北大助手、横浜国立大講師・助教授を経て、1991年4月より東北大教授(選研、現多元研)、2005年~2010年多元研所長、2012年3月東北大定年退職、同年4月東北大学名誉教授。
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