仙台市地域企業課題解決マイスター

MEISTER#08

大久 長範
Naganori Ohisa

山形県農業総合研究センター アドバイザー
農学博士

専門分野
食品加工、穀類加工、伝統食品

稲庭うどんの酵母から、古代発酵パンの研究へ
食品科学の世界は面白い!

大久先生は、宮城県名取市出身。大阪府立大学農学研究科で土壌微生物や肥料などの研究を行い、卒業後は肥料、食品、再製鉄を扱う民間企業に進んだといいます。「最初は肥料の研究をやっていたんですけど、社内で異動になって食品の分野で特許申請や管理の仕事をしていました。そんな中で秋田県総合食品研究センターで人を探しているというので、東北に帰ってくることになりました」と話します。

秋田県総合食品研究センターでは、地元企業との商品開発を行っていたという大久先生。その後、宮城大学に移ることになり、大学では食品化学、バイオテクノロジーなどを教えていたそうです。宮城大学で教鞭をとることになったときに、この御用聞き事業のキーパーソンである堀切川一男先生と以前にセミナーで知り合っていたことから、声がかかったのだといいます。「御用聞き事業は工業系の先生はいたんだけれど、食品系がいないから『やらないか?』ってね」。それをきっかけに、2008年から仙台市地域連携フェローとして御用聞き事業にかかわることになりました。

専門的な研究分野を伺うと「もともとが土壌の研究をしていたので、食品は純粋培養ではないんですよ(笑)。だから、特にこれ!というものはないんですけれど、研究して長いのは稲庭うどんですね。稲庭うどんは、ひねりながら伸ばすことで麺の内部に穴ができるんですね。なぜその穴ができるんだろう? というのを調べてみると、酵母が入っていて、それが発酵してガスをつくることで縦方向に穴が開くことが分かった。それが独特の食感につながっているんですよね。また、稲庭うどんから『耐塩性』の発酵パン種ができることも発見しましたね。最近では、その酵母を使って、自宅でパンを焼いています。そして今はその発展形で、エジプトで生まれたといわれている古代発酵パンの研究もはじめました。まぁ、そんなことを研究していますね。稲庭うどんについては、2024年の4月にNTS出版社から本も出るんですよ」と笑顔をみせます。

仙台の御用聞き事業で印象に残っている商品については、「大崎市にあるお茶屋さんの貝茶舗さんですね。古代米をつかって何かしたいということで、面白そうだなと。砂糖を加えて加熱してみたら、普通は糊のようになるのですが、この場合は『あんこ』のようになりました。古代米を使った『あんこの特許』のお手伝いをしましたね。今は、山形県農業総合研究センターでアドバイザーをしているのですが、そこでは白い米粉をつかった米粉あんをつくっています。クリームのような柔らかさで切れ味のある甘さなんですよ」と教えてくれました。

「日本調理科学会」「日本伝統食品研究会」「日本食品科学工学会」などに所属し、「いろいろな経験から、自分が無知だなってことがよくわかったんでね。それでいろんな勉強をする必要があるな、と。日本全国、フーテンの寅さんみたいにあっちゃこっちゃ行ってます」。訥々と、柔和な笑顔で話す姿が印象的な大久先生は、食品科学の分野で仙台・宮城の企業を支えていきます。

略歴
日本大学農獣医学部農芸化学、山形大学,農学研究科、大阪府立大学農学研究科修了。山形県農業総合研究センター食品加工開発部アドバイザーを務める。著書に「感性商品開発の実践―商品要素へ感性の転換」(日本出版サービス、長沢伸也編、共著)などがある。

ページトップへ